いるらしい繭《まゆ》の山の尖《さき》が白く覗《のぞ》かれた。
「近在で春蚕《はるご》のあがったのを買集めているところです」
有志の一人は説明した。どこからかそら[#「そら」に傍点]豆を茹《ゆで》る青い匂《におい》がした。古風な紅白の棒の看板を立てた理髪店《りはつてん》がある。妖艶《ようえん》な柳《やなぎ》が地上にとどくまで枝垂《しだ》れている。それから五六|軒《けん》置いて錆《さび》朽《く》ちた洋館作りの写真館が在る。軒《のき》にちょっとした装飾《そうしょく》をつけた陳列窓《ちんれつまど》が私の足を引きとめた。
緊張の気分もやっと除《と》れた私は、どこの土地へ行っても起るその土地の好みの服装《ふくそう》とか美人とかいうのはどういう風のものであろうかと、いつもの好奇心《こうきしん》が湧《わ》いて来た。
窓の中の写真は、都会風を模した、土地の上流階級の夫人、髯自慢《ひげじまん》らしい老紳士《ろうしんし》、あやしい洋装《ようそう》をした芸妓《げいぎ》、ぎごちない新婚《しんこん》夫妻の記念写真、手をつないでいる女学生――大体、こういう地方の町の写真館で見るものと大差はないが、切れ目のはっ
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