きりした涼《すず》しい眼《め》つきだけは撮《うつ》されている男女に共通のものがあってこの土地の人の風貌《ふうぼう》を特色づけていた。
だが、私が異様に思ったのは、それらに囲まれて中央に貼《は》ってある少年の大きな写真である。写真それ自体がかなり旧式のものを更《さら》に年ふるしたせいもあるだろうが、それにしても少年の大ようで豊かでそして何か異様なものが写真面に表われているのに心がうたれた。
少年はいい絹ものらしい着物を無造作に着て、眼鼻立《めはなだ》ちの揃った顔を自然に放置していた。いくら写真を撮し慣れた人でも、これくらい写真機に対して自然に撮させた顔も尠《すく》なかろう。
私が思わず硝子《ガラス》近く寄って、つくづく眺《なが》め入るのを見て、有志の一人は側《そば》に来て言った。
「それは、東北地方では有名だった四郎馬鹿《しろうばか》の写真です」
「白痴《はくち》なのですか、これが」私は訊《たず》ね返した。
「白痴ですが、普通《ふつう》の馬鹿とは大分変っておりまして、みんなに、とても大事にされました」
そして、これも遠来の講演者に対する馳走《ちそう》とでも思ったように四郎馬鹿につ
前へ
次へ
全16ページ中3ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
岡本 かの子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング