、悧巧《りこう》になって、お蘭さ嫁に貰いに来るだよ」
お蘭はふと、近頃人の噂《うわさ》では四郎の人気につけ込んで興行師がこの白痴の少年に目をつけ出したということを思い出した。これは只事《ただごと》ではない。
「駄目《だめ》よ、駄目よ、四郎さん。そんなことしちゃ」
けれども四郎はいつもの通りにはお蘭のいうことを聴《き》き入れなかった。
「よっぽど悧巧にならなけりゃ、おらに、お蘭さ嫁に来めえ」
そういうと四郎はふいと立って出て行ってしまった。
洋服を着て派手《はで》な舞台《ぶたい》に立つことと嫁を貰う資格とを無理に結びつけて誰かがこの白痴の少年の心に深々と染み込ませたものらしい。
四郎がお蘭のところへ来なくなって、この白痴の少年が金モールの服をつけ曲馬の間に舞台に現れて、唄をうたい踊りを踊ったのち、真鍮《しんちゅう》の小判だの肖像入《しょうぞういり》の黄財布だのを福の縁起《えんぎ》だといって見物に売るという噂を耳にした、お蘭は立っても居てもいられなかった。片親の父に相談してみても物堅《ものがた》い老舖の老主人は、そんな赤の他人の白痴などに関《か》まっても仕方がないと言って諦《あ
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