きら》めさせられるだけだった。
 冬が来て春が来た。四郎の人気はだんだん落ちて、この頃では、白粉《おしろい》や紅を塗《ぬ》って田舎芝居《いなかしばい》で散々|愚弄《ぐろう》される敵役《かたきやく》に使われているという風評になった。お蘭は身を切られるように思いながらじっとその噂を聞いた。四郎がたとえこの町へ帰って来てもどうなるものではない。馬鹿を悧巧にしてやることが出来るというでもないがしかしとにかく、早く帰って来て欲しいと神仏へ祈請《きせい》もした。
 また幾《いく》つかの春秋が過ぎた。四郎の噂は聞かれなくなった。
 父親は死んで、お蘭は家を背負わなければならなかった。生前に父親も親戚《しんせき》も婿《むこ》をとるようかなりお蘭を責めたものだが、こればかりはお蘭は諾《うべな》わなかった。四郎が伝え聞いたらどんなに落胆《らくたん》するであろう。この心理がお蘭には自分ながらはっきり判らなかった。お蘭の玉の緒《お》を、いつあの白痴が曳《ひ》いて行ったか、白分が婿を貰い、世の常の女の定道に入るとすれば、この世のどこかの隅であの白痴が潰《つい》え崩《くず》れてしまうような傷《いた》ましさを、お蘭
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