見たいものさ。だが、お大名と言やあ、あっしあ今朝から見て居て呆《あき》れたよ。こちらの御商売は全くお大名だよ。来る客も、来る客も、まるで乞食さ。無代《ただ》ででも貰って行くような調子で、若旦那済まねえがこれを少し分けておくんなさいと言うと、やるから持ってけ――だが負からねえぞ。――これじゃあ、どっちが売手だか買手だか判りませんぜ」
国太郎は河岸のふう[#「ふう」に傍点]であると共に、歿《な》くなった父親の態度を見よう見真似で子供の時からやって居る自分の商い振りが、どんなに大ふう[#「ふう」に傍点]なものか全然意識しないではなかったが、いま他人の感じに写った印象が、どのくらい権高なものかを知ると、幸福のような痛快のような気がして少し興奮して言った。
――そりゃ、幇間の商売とはちっとばかり違うさ」
これを聞いて魯八は、軽蔑に対する逆襲に向って来るかと思いのほか
――全くさ、幇間と来たら、こりゃ論外でさ」
と、超然とする。国太郎は張合い抜けがして魯八のしょげ[#「しょげ」に傍点]た姿を見ると、それと対照して、今度は自分の大ふうな態度の習慣が何だか過失ででもあるかのように省みられ、白
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