とと屋禅譚
岡本かの子
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【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)左程《さほど》
|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)英雄|気質《かたぎ》
[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)あるじ[#「あるじ」に傍点]
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一
明治も改元して左程《さほど》しばらく経たぬ頃、魚河岸《うおがし》に白魚と鮎《あゆ》を専門に商う小笹屋という店があった。店と言っても家構えがあるわけでなく鮪《まぐろ》や鮫《さめ》を売る問屋の端の板羽目の前を借りて庇《ひさし》を差出し、其《そ》の下にほんの取引きに必要なだけの見本を並べるのであった。それだからと言って商いが少ないと言うわけではない。
なにしろ東京中の一流の料理屋が使う白魚と鮎に関する限りは、大体この店の品が求められるので、類の少ない独占事業でなにかにつけて利潤は多かった。第一、荷嵩《にかさ》の割合に金目が揚がり、商品も小綺麗な代物なので、河岸の中でも羨《うらや》まれる魚問屋の一軒だった。
あるじ[#「あるじ」に傍点]の国太郎は三十五六のお坊っちゃん上り、盲目縞《めくらじま
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