っちゃけた気持ちになった。なるたけ早くしょげ[#「しょげ」に傍点]た男をいたわってやらなくちゃならない気に急《せ》き立てられ咄嗟《とっさ》の考えで言った。
 ――おまえ、一足さきに吉原へ行って、いつもの連中を集めて置け。おれは直ぐ後から行くから、田舎の客人も二三人招ぶのがあるから」
 虎の門琴平さまの朝詣りの帰りに寄ったという魯八は、国太郎の命令でそそくさとみやげのお札もそこへ忘れ、急いで店先から出て行った。

         二

 陽が射して来て、少し色の濁った皮膚が乾いて来た小鮎の並べてある笹籠を前に置いて、国太郎はまだ客を待っていた。実のところ今朝から客足が思わしく無く持荷の半分も捌《さば》ける見当がつかず、いたずらに納屋で飴色《あめいろ》の腹に段々鼠色の斑《まだら》が浮いて出る沢山の鮎の姿を思い出すとうんざりした。商売は其の日の運不運だから、それはまあよいとして、此頃《このごろ》頻りに手詰まって来た金の運転には暗い気持の中に嫌な脅《おび》えさえ感じられた。売先からの勘定は取れず、貸越し貸越しになり、それに引きかえ荷方からは頻りに勘定の前借りを申込まれる。小笹屋は河岸でも旧《
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