も凄まじく吹きつづける。兩方の親指と人差指とで作つた、四角ぐらゐの大きさのガラス窓から、風の轟々と鳴る戸外をのぞいて見る。そこは白晝ながら朦朧として、丁度海の底でも見るやうに薄ぐらく、森の骨まばらな巨木が昆布のやうに根本《ねもと》から搖らめいてゐるのが眼に入る。
顏を窓から離して、また今までとおなじ姿勢にかへる。わたしはこんな日何も讀まず、朝から書齋の爐のはたに默々としてうづくまつてゐる。晝めしを食べたあとも、また書齋にかへると同じ姿勢で默々としつづけてゐる。別に何も考へるでもない、ただ引きりなしの風音に耳を傾けながら、心のさまよつて行くころは、今の人間の世から何千年か先き、何萬年か先きの原始の境涯である。
北緯四十二度、時節は一月初め、歐羅巴や北米ゾーンと違つて亞細亞はこの緯度で十分寒く、首都の東京を離れる二百里で、「白色恐怖」は思ひの儘に威力を振ふ。
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人間はこれに對して最初は抵抗する。雪が降るとまるで本能の目ざめのやうに、武者ぶるひして振ひ立つ勇猛な心さへおこる。だが大自然に正面から、そして不用意にあらがうて何の利益のないことは、どんな農民の無智なものも知つて
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