むし》のやうに光る着物を着た」好い男と言はれた。わたしの直ぐまへには、どれも四歳ぐらゐで死んでしまつたけれど、矢張り綺麗な子と賞めそやされた、兄が二人あつた。さて末子のわたしは父親母親のかす[#「かす」に傍点]で出來たに相違ない。「この兒は一番不器量だ」と生れたときに、誰かに言はれた。わたしは全く親同胞に似ぬ不器量な、そして擧動の至極ボンヤリした子供であつた。でもこの子供がまだ乳呑兒と、誰しも見るその年《とし》で、どうしてそんなことをと思へるくらゐ、二歳《ふたつ》から三つ四つ五つぐらゐの年齡《とし》までの、とぎれとぎれながら樣々の周圍の光景を、幻のやうに今なほあざやかに記憶してゐる。海の蠱惑はその中でも眞初めのものである。ああ、十二里の平野と山間の路を、荷馬車一臺に親子四人を乘せたか、人と荷物とを車二臺に分けたか、さういふことは知らないけれど、その時母の膝の上にでも抱かれてゐた、まだ滿にして一歳《ひとつ》にもならぬこの乳呑兒は、乳の香りする息を吐き吐き、春の光の下《もと》の海といふ晴れがましい極彩の魔女の衣裳を、不思議な樣にマンジリ目を開いて見|戍《まも》つてゐたのである……
人間
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