て、綺麗な芝生《カガハラ》で縁《へりど》つた野球グラウンド、テニス・コート、時には白ペンキ塗りの棒杭だの木の柵だのを曲り角に置いて、松原の中へ抛物線状に繞込《くねりこ》んで行くらしい散歩道、水底が水草で彩られて縞を成してゐる小さい川……。その内松原の一方が沼地に成つて、海岸の砂地に續く平面な場所が暴露する。も少し行くと、水平線の低い海が帶状《おびじやう》を成《な》して、砂地の膨れあがつた曲線の彼方に現れる。稜を鋭く何箇所か空《そら》に目がけて切り立つて、孔雀石と翡翠の明暗を隈つた半島が此方の海岸《かいがん》に詰め寄せるかのやうに鮮《あざや》かに浮出してゐる。そこは東北地方の風景といふ先入觀念を完全に拭《ぬぐ》ひとるに足る明るい澄んだ、そして又おとなしい畫面《ぐわめん》である……。

 海《うみ》に出るといふ私の衝動は失綜し、歩《あし》をなほ進めて行く事に何かしらんはにかみたい樣な意識が湧いて來た。二歳《ふたつ》の年齡《とし》から十六歳《じふろく》になるまで何度見たか知れないこの海を、わたしは畢竟|痴《ウヂ》ケデ空虚《ボヤラ》と見て居たのだ。そこの表情には春、雪解けの野原で銀色の草の若芽
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