車がそろそろ當てにならなくなるのである。

 待合室はどこも皆一杯なので、入り口のところに妻や子供を待たせて置いて、出札口に立つてゐる驛員のところへ行つて、發車の時間を訊く。驛員はこの地方の言葉を丸出しにして、五時何分でなければ貴方の所要の接續の汽車が出ないといふ。ここから他に支線で出る汽車もある筈だから、も少し都合よい時間がないかと更に訊きただすと、わたしにも聞きわけられない訛りのある言葉で説明して、結局要領を得ない。この待合室に一杯詰つてゐる人々も、今皆わたしと同じ運命にあつてそれが同じ事ばかり訊くので、驛員も氣が苛々《いらいら》してゐるのらしい。しかしそれは兎に角わたしが郷里の人間の丸出しの言葉を聞いたのは、この驛員が殆ど最初であると言つてよかつた。それはこの郷里の大地から直《ぢ》かに湧いてくるやうに、生き生きわたしの鼓膜を刺※[#「卓+戈」、256−下−17]した。わたしは微笑して引きさがり、雜沓のなかを掻きわけて妻のゐる方に戻つた。
 妻は座席を讓られたと見えて、二等室入口眞近の昏《ほのぐら》いベンチに、小さい子を背負つた儘腰かけてゐた。
「どうしたの」
「駄目だ。二時間も待
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