つくやうだけれども
それにかかつては鐵骨の髓も片なしにくづ折れてしまふ
ああ城だ
城だ
白くががんとした美しい城だ

この城の土臺に穴をほじくつて行く蟲のやうに
自分はしみじみとしながら生きてゐる
押せばつぶれるやうなもろさを強めるに
穴をほじくつてゐる
それに永遠の生命あるものをつめかへる
埃《ごみ》のやうに小さいけれども
吹けば飛ぶやうに小さいけれども
地球を負ふアトラス程の力あるものを
世界の中心に眞直《まつすぐ》に線《すぢ》をひいて外づれる事のないものを
そこに入れるのだ
斯くして力がある
永遠に拔けることのない力がある

    ※[#ローマ数字4、1−13−24]

自分は諸君に考へて貰ふ
海底に働いて沈沒船を引上げる
潜水夫を

彼等はハンマアを持つて船の破れ口に板をはめ
鋲を打ち
斯くして内と外との水の交通を途絶して
船中の水をポンプで掻い出して
船を水面へ浮游させるのだ
ああ斯くして船は思ひも掛けない白晝《まつぴるま》の明《あかる》い世界へ出る
彼等の鋲を打つ手
破《やぶ》れ口をふさぐ手はのろくさいけれども
こののろくささに堪へきれなくて
腹が立つ人があつたら
自分も
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