共々に潜水夫になれ
世界の多くの斯かる人は盡く潜水夫になれ
その高くとまつて何《なん》の彼のといふのを止してハンマアをとれ
勞働者になれ
斯くして吾が手に打つ鋲一つが船の浮ぶのを一瞬でも早めるものである事を知れ
如何にしてどんな具合で浮ぶかはいまの時として解らないけれども
吾がなす事が船を浮める所以である事を知れ
ああ水夫になれ
あらゆる人々
幾千年前からして海底にゐた人生は
暗闇《くらやみ》にせめぎ泣き悲しみ
むだに苦しみ
暗から暗へ葬られてゐた人生は
斯くして今いづことも知れない海上へ浮び上げる人類の力を待ちつつあるのだ
光みなぎる青空のもとに
跳躍させる人類の手を待ちこがれつつあるのだ

    ※[#ローマ数字5、1−13−25]

自分は今このハンマアを握つて辛苦する
聖人になりたい
打つ鎚が常にねらひ外づれず打ちつづけられる
聖人になりたい
永遠に打ちつづけて倦むことを知らない
聖人になりたい
自分はまた彼の石に穴をほじくる
頭《づ》の固く齒の強い蟲になりたい
貪ぼつてやむことのないその蟲に
あらゆるものを斯くして食ひ亡ぼして行きたい
そして強いものを出して行きたい
斯くの
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