あ自分のぼんやりした夢を ――八月十六日

ああ自分のぼんやりした夢を醒してくれた自然よ
自分を生きたものにしてくれた自然よ
水先案内の如き君は
いま姿をくらまして
自分ひとりを殘してゐる

いま自分は舵をとる
帆を張る
石炭を抛り投げるシヤベルをとる

自分は絶え間なく君を夢みながら
君の叫んだ聲
自分のかつて叫んだ聲を
また叫ばんとして海に乘り出してゐる

  ひかりを慕ふ歌 ――八月十六日

自分は暗い
自分はまづしい
自分はじめじめしてゐる
自分はひとりぽつちだ
自分は行きづまつた
自分は一時めもあてられなかつた

自分があかるさを求め
かしこさを求めるのは
斯くの如くであつた自分である
それらの奧にひそんでゐる心から
今叫び出したのである
斯くして自分は永久にひかりを求めてやまない
光の子である

  日本の文學者に與ふる歌 ――八月十六日

    ※[#ローマ数字1、1−13−21]

詩人小説家といふ言葉は實に厭な言葉だ
そして諸君はそのあまりに詩人小説家らしい
自分は諸君と人間同志として握手する
自分は日常生活のごろごろだ
まるたんぼうだ
このまるたんぼうが途徹《とて
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