あらゆる艱難慘苦を踏み越えて進まう
あらゆる邪魔一切を切り離して
偉大な彼の正體と
全面と
共々に手をとりあつて生き得る所へ進まう

  自分は太陽の子である ――八月十一日

自分は太陽の子である
未だ燃《も》えるだけ燃えたことのない太陽の子である

今《いま》口火《くちび》をつけられてゐる
そろそろ燻《くす》ぶりかけてゐる

ああこの煙りが焔《ほのほ》になる
自分はまつぴるまのあかるい幻想《げんさう》にせめられて止まないのだ

明るい白光《びやくくわう》の原つぱである
ひかり充ちた都會のまんなかである
嶺《みね》にはづかしさうに純白な雪が輝く山脈である

自分はこの幻想《げんさう》にせめられて
今|燻《くすぶ》りつつあるのだ
黒いむせぼつたい重い烟《けむ》りを吐きつつあるのだ

ああひかりある世界よ
ひかりある空中よ

ああひかりある人間よ
總身眼のごとき人よ
總身|象牙彫《ざうげぼり》のごとき人よ
怜悧《りこう》で健康で力あふるる人よ

自分は暗い水ぼつたいじめじめした所から産聲《うぶごゑ》をあげたけれども
自分は太陽の子である
燃えることを憧れてやまない太陽の子である

  あ
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