そのうち水のまにまに流れる丸太を見つけた
自分はそれをたよりにして泳いだ
また自分と同じやうな人に幾らも出逢つてその人等と握手し合つた
自分と同じ水難者であつた
皆んな同じやうな目をくぐり拔けて來た
自分等は合力して筏を作つた
めいめい持ち寄りの丸太を集めて筏を作つた
それから永遠の潮《うしほ》に棹さした
帆をあげた
波は荒くとも
しけであるとも
自分等は行きつく果てまで行く歌をうたつた

おお敗殘者よ
敗殘者よ
自分等は多くの溺るる人を遠くに見た
自分等はそれを見過して行かねばならなかつた
自分等の目の前には常に大きな敵がゐる
いき引くばかり空中をあふつて來る熱風
大旋風
出づる處を知らずまた行く處を知らない敵よ
自分等はそれと鬪つて行くのだ
山から山へ波のうねりをのして進んで行くのだ
ああ目なく耳ない氷山よ
永遠に背を見せて走る潮流よ
自分等は無言の恐怖の世界のなかを
前のめりに進んで行く

おお敗殘
みじめ
底知れぬ波間に溺れゆくものよ
君等をふり棄てて行く氣は堪へられないけれど
自分等の目の前には恐ろしい敵がゐる
後ろ髮をひかれながらも
自分等は前のめりに進んで行くのだ
ああ
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