そのよい事とは何んだ
都會をつくることだ
めざましく力うごいてゐる大都會を作ることだ
白く光輝ある煙り、蒸氣を空いつぱいに充たしてゐる無數の烟突
朝の雲
大工場の都會をつくる
活溌で
力にむだのない
大音樂大音響の都會をつくる
このすばらしい使命は
僕等と君等にだけあるのだ
自分はいつもそんな事を空想してゐる
そしてこの空想は萬人の空想だと思つてゐる
實に痛切で拔くことの出來ない空想だと思つてゐる

ああ勉強なれ
わが友よ
わが兄弟よ
愉快に力いつぱいに働き給へ
君等や僕等ぐらゐ貴い人間はないのだ
僕等がなくなれば世の中は暗だ
葉を食ふ芋蟲ばかり殘るのだ
この貴い僕等の使命を感謝せよ
ああ頼母しく正直な兄弟よ
この大平面盤の上を濶歩したまへ
大手をふつて威張つて歩きたまへ

  航海の歌 ――八月十日

おお殉難者
殉難者
自分は泳ぎも知らないで
泳いでゐる
自分は海中に投げこまれた
手をふり足をふり
もがいてゐる
自分は赤子である
一羽の鴎にも及ばない
死ぬのが怖くて唯だじたばたしてる
からだを浮かしてゐる

おお力出す人間
力出す人間
自分はそのうちどうやら泳げるやうになつてきた
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