つと生かすべきものを生かさないで
墓のまはりの草のやうに
いつか花しぼみ
みきは固くなり
年老いた女の乳房《ちぶさ》のやうに
堅《かた》い實を結んで終《をは》つてしまふのである
自分は斯くの如く君を輕蔑《けいべつ》してゐる
吾が眼に見える美しい魂から
君のこの後《ご》の一生を見とほすのである
そしてそれに今たとしへない生のふた路を考へるのである
自分の愛は斯くの如くして君をまづしく生きる事をゆるさない
自分はもつと燃えるべきことを欲してゐる
自分はそれだけ君のとろけるやうな肉體に
體感的《たいかんてき》な愛に燃えてゐる
斯くの如く吾れを動かす君に
力強い牽引《けんいん》を感ずる
君はどうかは知らないけれども
君は自分に深いものを與へてゐる
自分のなすことに一々君の裏書《うらがき》がある
やき印《いん》がある
背中あはせのやうにこの年月過したので
君が斯くばかり自分に深かつたとは知るまいが
斯くばかり深いものが他にどこにあらう
自分はこれをむざむざ埋めてしまふに堪へられるだらうか
世界は斯くして平面である
廣い原野に日がひとつ
ぽかりと白く光つてゐる
唯だそれのみだ
聲がない
自
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