分の君を慕《した》ふ心は
斯くの如き沈默には堪へられない
自分は睡つても體内の血はめぐつてゐる
自分は死んでもその血は滯《とどこ》つてゐる
すべて血である
自分はこの血の何もなさぬことに堪へられない
血はやれやれやれと
脈管を痙攣的《けいれんてき》にめぐつてゐるのだ
ぶつかれぶつかれぶつかれと
めぐつてゐるのだ
ああこの血よこの血よ
純《じゆん》なるものの最も純なるものよ
自分は君にぶつかつて
この血を愛の肥料《こやし》にしようと思ふ
ああ吾が胸に潜む黄金の十字架は
斯くして君の胸の中で明かなものになる
ああ十字架を感ずる
君の胸の中にである
千百人の美しい子供の魂を集めて
それを君の乳で育ててやる微妙な光や氣は
君の胸の中で生きてゐるのだ
斯くの如く君を深く見得た人はどこにある
世界三界さがしても
斯くの如く洞察し得た聖者はどこにある
神罰を恐れよ
君よ
この深い人間の根に從へ
原人時代の人間の根に從へ
原人時代の人間から將來の人間に到るまでも
深く人類に根ざしてゐるこの地下層の清水《しみづ》を飮《の》め
斯くして君は幸福なのだ
あらゆる君のこじれた心が濕ふのだ
そして美しい自然
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