命令してゐる
私こそ人生に貸がある
母胎のかげでうごめいて居る
私こそまことの怖しい債鬼だ
人生の奧にその貸が匿してある
抛《はふ》りつぱなしで貸つぱなしな
今まで知らなかつた手強い貸がある
まづ私は森林に火を放《つ》けて
ひとかたまりの野獸を追ひださう
苦しい惡鬼を吾れから振ひ落し
吾から肉體にせぐりあげる
深いすすり泣きの聲を聞かう
これこそ烈しい命だ
これ以上の眞實なライフが私にあるか
これこそ止みがたい魂の誕生だ
もはや冒涜でない
悲痛で不安な燈火《ともしび》はをやみなく明滅する
とりどりに美しく寶石はときめいて
もろもろのさびしい涙を薄暗がりでときあかす
私の心はいつもただひとつで
不思議な斷末魔の啜泣きに耳をそばだてる
私の心はいつもただひとつで
皿の油火《あぶらび》はをやみなく明滅する
これこそ私のあげる聲だ
せぐりあげる産聲だ
魂はめざめればめざめる程悲痛になり
或る宣告が耳にとどく
私は怖しい債鬼だ
しどろもどろの影がまはりの壁にうつる
足どり亂して響きのない影が街中《まちなか》をふみまはる
薄白い焔はその間をやみなく油皿の中からゆらめいて
斷末魔のすすり泣き
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