くない、併し親みのとりどりに深かつた友達にかう言ひたい
私は今あなた方や、また君達のことを思ふと限りなく深い負債《ふさい》の沼にはまつて行くばかりだ
そして今頃それを言ひ出す程
私のした事はあらゆる冒涜《ばうとく》である
人の心の冒涜である
ああ私はあらゆる淨い氣高《けだか》い土地をかうして今までむだに涜《けが》して來た
今こそ自分自身の魂《たましひ》からもの言はう
私は一時乞食であつた
瞞《かた》りであつた
泥棒であつた
そして苦しく蒼ざめて氣むつかしい
つむじまがりの幽靈であつた
それに欺《だま》されたのが口惜《くや》しかつたら
皆《みんな》で手いつぱいに憎んでくれ給へ
私は人を欺した覺えはないが
自分が未だ生れないのを
生れたと思つた罪がある
そこで冒涜した
人の心を冒涜した
私はこの負債をいつ拂へよう
人に犯したこの罪は
一生ぬぐへまい
私には悲痛な深刻な魂が
今日を覺してゐる
よりどころのない、併し確な一歩が踏みだしてある
今までの死殼《しにがら》を蹴飛ばして
心から出る産聲《うぶごゑ》をあげる處だ
つむじまがりの幽靈は面變《おもがは》りして
あかく灼熱した眼を燃しながら
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