ああ、夢ならばさめておくれ
ぽかんさん
此の世の中に多いものは
祕藏息子のやもめ暮らし
時計の針の尖《さき》のやうに
氣の狂《ふ》れやすい生娘《きむすめ》暮らし
この年月の寒暑《あつささむさ》の往來に
私の胸は凋《しぼ》んだ花の皺《しわ》ばかり
私の胸はとりとまりない時候はづれな食氣《くひけ》ばかり
扇を持つみなしごの娘 ――七月
扇の中にみなしごは
白い虚《うつろ》な眼を閉ぢる
病氣上りの氣のやみに
まぶしく照らす赤い夕日
風にふらふらうごく雛罌粟《ひなげし》
心覺《こころおぼ》えの兩親《ふたおや》が心の何處かにあるやうに
所々《しよしよ》にきらきらと清水《しみづ》が涌く
ああパウルのやうに嚴《いかつ》くて、ペテロのやうにやさしい院長さん
私が此方《こちら》へ初めて來た日には
あのお天日樣《てんとさま》目掛けて飛んでゆく鳥みたいでした
そのくせ夜《よる》になると魘《うなさ》れたり
泣き出したり
知らぬ他國の夢を見て
暗い廊下におびえて居たり……
すべての友達に送る手紙 ――十一月
覺醒《かくせい》はそれ自身でひとつの誕生だ
ひとつの新しい靈魂の生活だ
私は餘り多
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