番目の燈明《とうみやう》に火をともし
七番目の女の死骸を鞭つた

そして八番目の打下《うちおろ》しにがつかりと力がぬけて
神へ悲しい哀訴《あいそ》の手をあげた

身體《からだ》は浮上るやうに淨《きよ》くかろくなり
眞黒な錦襴の帷《とばり》は九番目の祕密を垂らした

夢に照るらしい月夜はその中に薄青くけむつてゐる
星は覺束なげに天にひかつてゐる

十番目の吐息《といき》をすると
古めかしい記憶がしんとして行つた

十一番目の火をともすと
月光はおぼろげな火陰《ほかげ》を搖《ゆら》めかした

十二番目の大理石像の背後《うしろ》には
私にいきうつしの老人が俯向《うつむ》けに倒れてゐる

眞白にしをれた薔薇は
うろ覺えの記憶をにほはしてゆく

十三番目の空中には
一つの棺《ひつぎ》が星雲《せいうん》のやうに浮いてゐる

悲しい一生の悔恨《くい》や悲嘆《なげき》や追憶《つゐおく》は
其處に匿れて齒がみしてゐる

捉へがたい鎖《くさり》になげいて
私は十四番目の哀訴の手をあげた

  智慧の實を食べてより ――七月二十四日

栗の樹の下を歩けば
ふかい落葉の中に
君の吐息《といき》たち
わたしの吐
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