ベンチを離れた
ああ私はどこへゆく?
ただ一人うちしをれて歩むプラツトフオオム
鎖《とざ》した歎きは何時までもほどけず
ただ一人うちしをれて歩むプラツトフオオム
人混《ひとご》みにときめかぬ處女の胸
其の胸は病みおとろへた私の胸にある
其の悲哀《かなしみ》は時を打つ振子《ふりこ》のやうに
術《じゆつ》なげに力なく時を打つ振子のやうに
思ひ出しては鉦《かね》をならす
その追憶は病みおとろへた私の胸にある
ああ、あなたは今どこにゐる?
うすむらさきに吐息する白熱燈《アークライト》
あなたの微笑した顏はどこにある
人影がいり亂れる蒼青《まつさを》なプラツトフオオム
たよりない人生に
嘆息《ためいき》はほろびず
世にない人に
くちびるはふるへる
さびしくも唯だ一人どこへゆく?
薄月に小雨《こさめ》が降り出して
ほのあかるい夜の空
さびしくも唯だ一人どこへゆく?
一生 ――六月三十日
[#ここから4字下げ、15字詰め]
一といふ盲人《めくら》に、二といふ女盲人、悲しい生命《いのち》は其の間からうまれた
[#ここで字下げ終わり]
四番目の扉をひらいて
五番目の椅子へ座つた
六
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