は蒼白《あをじろ》い眼を沈めてゆく

    ※[#ローマ数字2、1−13−22]

嵐は世界を靜かな涙と追憶にした
私の睡眠《ねむり》の底には
あふれる河が流れてゆく
私の魂はつめたく浸《ひた》されて
水音に風は泣き
其の魂を開いてくれと
葉摺《はず》れは空中にそよぐ

私にはあの葉摺れのひそめきは捉《とら》へられない
胸へ落ちて來る闇黒《くらやみ》のほのめきには果《はて》がない
水に浸されて身慄《みぶる》ひする梢の繁り
すすり泣きながら消えてゆく風には果がない

    ※[#ローマ数字3、1−13−23]

私の追憶は何時《いつ》の間にか白い餌魚を沈めてゐる
盲《めし》ひた中を手探《てさぐ》りで夢とうつつに歩いてゆく
雨《あま》あしがたち消えながらも何處《どこ》の樹《き》からとなく私の膚《はだ》を冷してゐる時、ふと紅《あか》い珊瑚の人魚が眞蒼《まつさを》な腹を水に潜らせる
鏡はまたも永遠の暗となり
老年の追憶は吐息をつく
そして蝋燭の焔がちらちらする

あれは屹度《きつと》物言はぬ幾千年の魚だらう
老衰者《らうすゐしや》の悔や執念《しふねん》を悲哀の箱で胸をふさがせ
泣いてるやう
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