などが寂しい睡《ねむ》けに渦卷いて
私は何時《いつ》からとなく寢づいて今またふと目が覺めた
蝋燭が遠い銀色の過去をちらちらさせながら燃えてゐる
しつとりと濕《しめ》つた悲嘆《なげき》が私の影法師を深く迷はしてゆく
ひそやかな葉摺《はず》れが空中に消えると
其のあとしんとして雨氣《あまけ》が窓から溢れ動く
嵐はあらゆる追憶を殘して夙《とう》の大往昔《おほむかし》に死んでしまつたらしい
雨樋《あまどひ》からはぽとりぽとりと絶《た》え絶《だ》えに落つる水音《みづおと》
あれは何時《いつ》迄も止む事なく落つる孤獨の響きだ
天井窓《てんじよまど》からはしめやかに空氣にまじる雨氣《あまけ》の薄明り
あれは濡れた瞳を投げる底なしの鏡だ
白い敷物は半睡《はんすゐ》の奧におしひろがり
蒼白《あをざ》めた鏡は悲哀《かなしみ》の室《へや》を見つめて
この一夜《ひとよ》の魂《たましひ》をまもるらしい
ああ眠つた間《あひだ》も蝋燭の焔をちらちらさしてくれ
ひそやかな葉摺れにうつつなく私が思ひは深い淵をばなきめぐる
ああ眠つた間《あひだ》も焔をちらちら鏡へうつしてくれ
ひそやかな葉摺れに消え入る思ひして私の夢
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