みづそこ》の魚のいのちは食慾の
魂《たま》をもとめる――

  墓標 ――二月

淺い地蟲《ぢむし》の亡《な》き骸《がら》に
櫻實《さくらんばう》が熟《う》れました

味氣《あぢき》ない世に葬禮《さうれい》の柝《き》を叩《たた》く
醉《よ》うた女房達《にようばうたち》が柝を叩く
淫《たは》れ心の紅眞珠《べにしんじゆ》――キスの音《おと》

おれは死を戀ひ
きやきやと月夜烏《つきよがらす》の齒が痛む、一《ひ》と夜《よさ》明《あ》けた醒めごころ
葉陰《はかげ》の水に醉ひ醒めて
刹那《せつな》刹那の涙を賣る

空耳《そらみみ》に鳴る拍子木《ひやうしぎ》やキスの音《おと》を
晝間の夢に聞き流して
餓《う》ゑる赤兒の泣き聲を
思ひ出しては耳すまし――
跫音《あしおと》、跫音

  洪水前の夜の REVERIE ――六月十三日

    ※[#ローマ数字1、1−13−21]

警鐘《けいしよう》が陰氣《いんき》に響いてくる
永遠の夜氣《やき》はその相間《あひま》にしんとした闇をたどり
檐《のき》の寢鳥《ねとり》はくくくと悲しさうに空氣をふるはせてなく
河口《かはぐち》、街角《まちかど》、工場の屋根
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