えま》なく甃石《しきいし》に咳《しはぶ》けり

行交《ゆきか》ふ人影は下に降《ふ》りこめられて
暮れてゆく一と筋の水のひかり
とある街燈の油壺《あぶらつぼ》には灰色な波の
薄明かり……

斯うしてつぶやく夜《よる》が來た
薄ら寒い壁の感觸《てざはり》に
油の焔は河口《かはぐち》のガス燈のやうに

降りそそぐ柳の霙は
河口の波にふるへる
薄ガラスの家守《やもり》の腹は
銀の陰影《いんえい》に吸ひついてゐる

  安息日の晩れがた ――十一月十八日

古い蝋《らふ》の火のくすぼるるかなしさ
あはれ、あはれ尼達《あまたち》の合唱《コーラス》のかなしさ
安息日《あんそくじつ》の晩《く》れ方《がた》に薄ぐろい銀の錆《さび》をしみじみと
泣いてすぎゆく鐘の音《ね》
雪降りの窓のたよりない薄明り

過ぎた日の思ひ出には火を灯《とも》し
暴風が梢《しん》をわたる森の胸をひらき
懴悔《ざんげ》の鳩尾《みぞおち》に涙をとかして
この葬禮《さうれい》の夜を過《すご》させたまへ

鐘は風と一緒に鳴り、薄明りの窓のほとり
暮れよ、暮れよと尼達の暗い森の合唱《コーラス》

  娼女 ――十一月十八日

千夜萬夜《
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