。高い椎の樹へ隠れるのである。直射光線が気疎《けうと》い回折光線にうつろいはじめる。彼らの影も私の脛の影も不思議な鮮やかさを帯びて来る。そして私は褞袍《どてら》をまとって硝子《ガラス》窓を閉《とざ》しかかるのであった。
午後になると私は読書をすることにしていた。彼らはまたそこへやって来た。彼らは私の読んでいる本へ纒《まつ》わりついて、私のはぐる頁のためにいつも身体を挾み込まれた。それほど彼らは逃げ足が遅い。逃げ足が遅いだけならまだしも、わずかな紙の重みの下で、あたかも梁《はり》に押えられたように、仰向《あおむ》けになったりして藻掻《もが》かなければならないのだった。私には彼らを殺す意志がなかった。それでそんなとき――ことに食事のときなどは、彼らの足弱がかえって迷惑になった。食膳のものへとまりに来るときは追う箸をことさら緩《ゆ》っくり動かさなくてはならない。さもないと箸の先で汚ならしくも潰《つぶ》れてしまわないとも限らないのである。しかしそれでもまだそれに弾ねられて汁のなかへ落ち込んだりするのがいた。
最後に彼らを見るのは夜、私が寝床へはいるときであった。彼らはみな天井に貼りついてい
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