かったので皆笑った。――
[#ここから2字下げ]
美人の宙釣り。
力業《ちからわざ》。
オペレット。浅草気分。
美人胴切り。
[#ここで字下げ終わり]
 そんなプログラムで、晩《おそ》く家へ帰った。

     病気

 姉が病気になった。脾腹《ひばら》が痛む、そして高い熱が出る。峻《たかし》は腸チブスではないかと思った。枕元で兄が
「医者さんを呼びに遣《や》ろうかな」と言っている。
「まあよろしいわな。かい[#「かい」に傍点]虫かもしれませんで」そして峻にともつかず兄にともつかず
「昨日あないに暑かったのに、歩いて帰って来る道で汗がちっとも出なんだの」と弱よわしく言っている。
 その前の日の午後、少し浮かぬ顔で遠くから帰って来るのが見え、勝子と二人で窓からふざけながら囃《はや》し立てた。
「勝子、あれどこの人?」
「あら。お母さんや。お母さんや」
「嘘いえ。他所《よそ》のおばさんだよ。見ておいで。家へは這入《はい》らないから」
 その時の顔を峻は思い出した。少し変だったことは少し変だった。家のなかばかりで見馴れている家族を、ふと往来で他所《よそ》目に見る――そんな珍しい気持で見た故と
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