付きでやっている。信子はそんな娘であった。
義母などの信心から、天理教様に拝んでもらえと言われると、素直に拝んでもらっている。それは指の傷だったが、そのため評判の琴も弾かないでいた。
学校の植物の標本を造っている。用事に町へ行ったついでなどに、雑草をたくさん風呂敷へ入れて帰って来る。勝子が欲しがるので勝子にも頒《わ》けてやったりなどして、独《ひと》りせっせとおし[#「おし」に傍点]をかけいる。
勝子が彼女の写真帖を引き出して来て、彼のところへ持って来た。それを極《き》まり悪そうにもしないで、彼の聞くことを穏やかにはきはきと受け答えする。――信子はそんな好もしいところを持っていた。
今彼の前を、勝子の手を曳《ひ》いて歩いている信子は、家の中で肩縫揚げのしてある衣服を着て、足をにょきにょき出している彼女とまるで違っておとな[#「おとな」に傍点]に見えた。その隣に姉が歩いている。彼は姉が以前より少し痩せて、いくらかでも歩き振りがよくなったと思った。
「さあ。あんた。先へ歩いて……」
姉が突然後ろを向いて彼に言った。
「どうして」今までの気持で訊《き》かなくともわかっていたがわざと彼
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