やったりした。
 やがて仕度ができたので峻《たかし》はさきへ下りて下駄を穿《は》いた。
「勝子(姉夫婦の娘)がそこらにいますで、よぼってやっとくなさい」と義母が言った。
 袖の長い衣服を着て、近所の子らのなかに雑っている勝子は、呼ばれたまま、まだなにか言いあっている。
「『カ』ちうとこへ行くの」
「かつどうや」
「活動や、活動やあ」と二三人の女の子がはやした。
「ううん」と勝子は首をふって
「『ヨ』ちっとこへ行くの」とまたやっている。
「ようちえん?」
「いやらし。幼稚園、晩にはあれへんわ」
 義兄が出て来た。
「早うお出《い》でな。放っといてゆくぞな」
 姉と信子が出て来た。白粉《おしろい》を濃くはいた顔が夕暗《ゆうやみ》に浮かんで見えた。さっきの団扇《うちわ》を一つずつ持っている。
「お待ち遠さま。勝子は。勝子、扇持ってるか」
 勝子は小さい扇をちらと見せて姉に纏《まと》いつきかけた。
「そんならお母さん、行って来ますで……」
 姉がそう言うと
「勝子、帰ろ帰ろ言わんのやんな」と義母は勝子に言った。
「言わんのやんな」勝子は返事のかわりに口真似をして峻《たかし》の手のなかへ入って来
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