また別の日。
夕飯と風呂を済ませて峻《たかし》は城へ登った。
薄暮の空に、時どき、数里離れた市で花火をあげるのが見えた。気がつくと綿で包んだような音がかすかにしている。それが遠いので間の抜けた時に鳴った。いいものを見る、と彼は思っていた。
ところへ十七ほどを頭《かしら》に三人連れの男の児が来た。これも食後の涼みらしかった。峻に気を兼ねてか静かに話をしている。
口で教えるのにも気がひけたので、彼はわざと花火のあがる方を熱心なふりをして見ていた。
末遠いパノラマのなかで、花火は星|水母《くらげ》ほどのさやけさに光っては消えた。海は暮れかけていたが、その方はまだ明るみが残っていた。
しばらくすると少年達もそれに気がついた。彼は心の中で喜んだ。
「四十九」
「ああ。四十九」
そんなことを言いあいながら、一度あがって次あがるまでの時間を数えている。彼はそれらの会話をきくともなしに聞いていた。
「××ちゃん。花は」
「フロラ」一番年のいったのがそんなに答えている。――
城でのそれを憶い出しながら、彼は家へ帰って来た。家の近くまで来ると、隣家の人が峻《たかし》の顔を見た。そして慌《
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