を、彼がはじめて Dynamics のなかへ持ち込んだのである。

     馬

[#天から3字下げ]軍港を内臟してゐる

 北川冬彦のこのやうな詩になつて來ると、軍港といふ二字が既にもう軍港のヴイジョンを伴ふのである。そして「内臟してゐる」で、昔の人が南蠻渡來の人體解剖圖を信じた奇怪さで、馬がそれを「内臟してゐる」眞實を信じさせられてしまふのである。この最も短い詩は最も強い暗示力を示してゐる。そしてもう一つ注意さるべきことは、この詩の構圖が「物質の不可侵性」を無視することによつて成り立つてゐるといふことである。このことは屡々 cubism の畫家の motive になつてゐる。私はこの affinity についてもう暫く語り度い。
 彼の第一詩集「三半規管喪失」のなかに次のやうな詩がある。

     瞰下景

[#ここから3字下げ]
ビルデイングのてつぺんから見下すと
電車 自動車 人間がうごめいてゐる
目玉が地べたへひつつきさうだ
[#ここで字下げ終わり]

 高いところから下を見たときの感じがこんなにも生々と表現されたことはないであらう。この生々しさは何によるか。それは「目玉
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