たいろいろな鳥が雀《すずめ》に混って餌《えさ》を漁《あさ》りに来た。もうそれも来なくなった。そして隣りの物干しの隅には煤《すす》で黒くなった数匹のセキセイが生き残っているのである。昼間は誰もそれに注意を払おうともしない。ただ夜中になって変てこな物音をたてる生物になってしまったのである。
この時私は不意に驚ろいた。先ほどから露路をあちらへ行ったりこりこちらへ来たり、二匹の白猫が盛んに追っかけあいをしていたのであるが、この時ちょうど私の眼の下で、不意に彼らは小さな唸《うな》り声をあげて組打ちをはじめたのである。組打ちと云ってもそれは立って組打ちをしているのではない。寝転《ねころ》んで組打ちをしているのである。私は猫の交尾を見たことがあるがそれはこんなものではない。また仔猫《こねこ》同志がよくこんなにしてふざけているがそれでもないようである。なにかよくはわからないが、とにかくこれは非常に艶《なま》めかしい所作であることは事実である。私はじっとそれを眺《なが》めていた。遠くの方から夜警のつく棒の音がして来る。その音のほかには町からは何の物音もしない。静かだ。そして私の眼の下では彼らがやはりだ
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