交尾
梶井基次郎
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【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)蝙蝠《こうもり》が
|:ルビの付いていない漢字とルビの付く漢字の境の記号
(例)一度|河鹿《かじか》を
[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)声[#「声」に傍点]を
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その一
星空を見上げると、音もしないで何匹も蝙蝠《こうもり》が飛んでいる。その姿は見えないが、瞬間瞬間光を消す星の工合から、気味の悪い畜類の飛んでいるのが感じられるのである。
人びとは寐《ね》静まっている。――私の立っているのは、半ば朽ちかけた、家の物干し場だ。ここからは家の裏横手の露路を見通すことが出来る。近所は、港に舫《もや》った無数の廻船《かいせん》のように、ただぎっしりと建て詰《こ》んだ家の、同じように朽ちかけた物干しばかりである。私はかつて独逸《ドイツ》のペッヒシュタインという画家の「市に嘆けるクリスト」という画の刷り物を見たことがあるが、それは巨大な工場地帯の裏地のようなところで跪《ひざまず》いて祈っているキリストの絵像であった。その連想から、私は自分の今出ている物干しがなんとなくそうしたゲ
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