言つたらば、あああれは苦力だと言つた。お客樣の眼になんぞついて怒られるかと思つて隱れたのだらうとも言つた。その苦力は、たつた月八圓ばかりで、朝毎に家の者の眼のさめないうちに、庭を掃き清め、夜更けまで畠の世話から何から、下※[#「廴+囘」、第4水準2−12−11]りのことは一さいするのだが、一軒の家に雇はれきりでないものは、小額の錢で幾軒かかけもちにしてゐるのもあるといつた。
 私は庭へおりて、家の※[#「廴+囘」、第4水準2−12−11]りを見まはして見た。この家ばかりではなく、何處でも、中の廣さがわからないやうな建てかたになつてゐて、門は一間か一間半ぐらゐになつてゐる。別だん密林なのではないが、どうも母屋の家根がよく見えない土塀つづきだ。そして、よく見ると、土塀にそつて一側、住居があるのだが、それすらはつきりしないほど巧く出來てゐる。
 妹の家の庭の向う、道路に面した方にも別人の住居が二軒も並んであるのだが、さうきいてもわからなかつた。門の片側に、運轉手のゐる小屋があり、その後がボーイの住居、その後が厨司一家《ちゆうずいつか》で、細長く住んで、間に空地《くうち》はあるが、客室の後まで
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