ら何かで、大勢の出迎へをうけたので、荷物は馴れた人達がどんどん運んでくれてしまつたが、停車場の裏手の方へ出るのに、高い橋のやうなところを渡つてゆくと、若い兵隊たちが化粧鞄をあけたりして、しやがんで、細かいものを見はじめた。私は彼等が頭を集めてゐる金屬製の容器類から、匂ひのよいクリームや、仁丹を彼等の掌へ振り出して見せてやつた。それらの兵隊たちは、後の日に見た昔風の、藍色に赤い丸を染めた、ダブダブの支那服を着てゐるのとちがつて、ふと見ると、日本の兵隊さんたちと間違ふほど、キツチリした軍裝をしてゐた。
そんなふうに、遲く着いたので翌朝眼がさめると、誰よりも早く朝の庭を、窓をひらいてゆつくりと眺めてゐた。と、ひとりの老人が、木立の間を丁寧に掃ききよめて打水をしてゐるのが、いかにも親切なやりかただが、此家の雇人としては、あまりにも日に燒け黒み、胸まであらはで身汚なすぎるのだつた。それに、私を不思議がらせたのは、私の眼が窓にあると知ると、彼は身をかくすやうにして隅の方へ行くことだつた。
厨司《ちゆうず》や、女中や、ボーイや運轉手たちにお土産の心づけをする時に、あのおぢいさんにもやつて下さいと
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