勤へと人は道を急いだ。そして有楽座の座席は臨時の補助|椅子《いす》までふさがって満員になってしまった。しかもその満員は悉《ことごと》く紳士淑女の集りであった。呂昇熱は――呂昇支持者はそういう階級に盛んだった。
私はそのおりのきらびやかな服装の集りと、高価な煙草や香料のかおりと、先夜の綾之助へ集った聴衆の埃《ほこ》りっぽさ暗さを思いくらべて、綾之助の人気は堅実なものだと思った。しかしながら彼女の芸には、もっと情熱がなくてはいけないと思った。呂昇にそうした明るさと華やいだ人気があるのが誇ならば、綾之助には民衆と親しみのあるのを大きな誇としなくてはならないと考えながら、呂昇のことを心覚えに記しておいた古いノオトを出して見た。
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――呂昇全快、呂昇復活の人気は十五日間を客止《きゃくどめ》にした景気となった。そのおり信州から呂昇に相談をかけて来たが、一ヶ月七千円だすならばと彼女は答えた。これが外国の演芸界のことでもあれば、名ある唄女《うたいめ》の一夕の出演にも、驚く金額ではないかも知れないが、貧乏な国の、しかも多く旅芸人を拾いあげて、安価興行をしなれて来ているものには、そ
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