浜町河岸《はまちょうがし》に「酔月《すいげつ》」という料理店をだした。そうした家業には不似合な、あんまり堅気な父親をもっていて、恋には一本気な彼女を抑圧しすぎた。我儘《わがまま》で、勝気で、売れっ児で通して来た驕慢《きょうまん》な女が、お酒のたちの悪い上に、ヒステリックになっていた時、心がけのよくない厭味《いやみ》な箱屋に、出過ぎた失礼なことをされては、前後無差別になってしまったのに同情出来る。彼女は自分の意識しないで犯した大罪を知ると直《すぐ》に、いさぎよく自首して出た。獄裡にあっても謹慎《きんしん》していたが、強度のヒステリーのために、夜々《よよ》殺したものに責められるように感じて、その命日になると、ことに気が荒くなっていたということであった。幾度かの恩赦《おんしゃ》によって、再び日の光を仰ぐ身となったが、薄幸のうちに死んでしまった。

       六

 ささや桃吉《ももきち》、春本万竜《はるもとまんりゅう》、照近江《てるおうみ》お鯉《こい》、富田屋八千代《とみたややちよ》、川勝歌蝶《かわかつかちょう》、富菊《とみぎく》、などは三都歌妓の代表として最も擢《ぬきんで》ている女たち
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