風《やつこふう》をするやうになり、奴|氣質《かたぎ》を賣りものにしたが、それは侠《きやん》で、パリ/\とした、いい氣つぷ、ものに拘はらない、金に轉ばないといふたてまへで江戸藝者など、それをまづ第一の素質とした。これは夕立をこのみ、櫻花の散りぎはを賞美する、いさぎよさを好む、日本人的代表な、さつぱりした氣質なのだが、それつきりでは困りもので、江戸ツ子は皐月《さつき》の鯉の吹き流しなどと、得意になつてゐた一部もあるが、サラリとしたそのうらに、噛みしめた細かいキメはもつてゐる。それは、都會人特有のセンチメンタルだとばかりもいへない。しかし、それはよい方のことばかりいつたので、奴氣質とはなにかと、字典を開くと、放埓、無頼の氣質、折助根性《をりすけこんじよう》とある。奴詞《やつこことば》は一種粗雜な言葉づかひ、六方《ろつぱう》ことば、關東《くわんとう》べい、とある。
 徳川九代家重の寛延元年七月廿七日の禁令には(百八十八年前)
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おつて供※[#「廴+囘」、第4水準2−12−11]り徒士の者、中間《ちゆうげん》、奴共風俗|不宜《よろしからず》がさつに有之、供先にても口論仕不屆
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