ところで、鐵火とは、卷き舌で、齒ぎれのよい肌合を差していつたものだが、氣のあらい勇《いさ》み肌《はだ》のなかでも、鐵火といはれるのは、どうしたことかすこし下品さをふくんでゐる。鐵が火のやうに燒けて、カンカンなのか、火のやうに強い性格といふのか、それとも火のやうに燒けた鐵の棒を突きつけられても、おそれない人といふのか、そんなことは、さうした方面の研究をしてゐる人にでもきかなければ由來はわからないが、坎《かん》、もしくは駻《かん》なるものならば、女の時にもつてくれば、疳《かん》の高い馬のやうな跳つかへりをさしたものともおもへる。「言泉《ことばのいづみ》」を見ると、戰國時代に罪の虚實を糺さんために、鐵を赤熱せしめて握らせるものとある。そしてまた、心ざま兇惡無慙なること、野鄙殺伐《やひさつばつ》ともある。鐵火肌はさうした性質ともある。
 そこで、獨立した女親分――そんなふうなものをも姐御といひ、尊稱して大姐御ととなへるやうだが、わたしはこの位きらひなものはない。なぜなら、いやに偉らがつて、そこに、あざけ[#「あざけ」に傍点]きつたものが多分にあるからだ。
 ともあれ、まづ、江戸末期の頽廢し
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