分らない。水滸傳など、ああした作りものとしても、あの虎を張り殺した武松《ぶしやう》にしびれ酒をのませ、母夜叉孫二娘《ぼやしやそんじじやう》――孟洲の路《みち》の、大樹林の十字波の酒店で、頭には鐵環をはめ、鬢には野花をさした美しい女が、人肉の肉包を賣つてゐたり、これも登洲城の東門の外で、酒を商つてゐた、母大虫顧大嫂《ぼだいちうこたいさう》といふ勇力武藝男子にすぐれ、四五十個の男も敵とするあたはずといふ女猛者《をんなもさ》は、おなじ、梁山伯《りようざんぱく》の女性のうちでも、扈家莊《こやそう》の女將で、五百の手勢を率ゐ、白馬にまたがつて兩刄をつかつた、お姫樣出の、美女|一丈青扈三孃《いちぢやうせいこさんじやう》などよりは、姐御といふことばのはまつた器であると思ふ。ああした粉本《ふんぽん》は、あの頃ばかりではなく、支那には澤山あつたのかも知れない。シベリヤお菊とか、おらんだお蝶とか、海外漂泊の女の中にも、さうした方面の人たちは、我國の實在の女性にも多かつたであらうが――
 それにしても、姐御とはどうしても、浮世ずれのしたところと、世帶ずれもあつて、いはゆる、下腹《したはら》に毛のないといつた
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