お書《かき》になった日記の中で、読んだことがあります。みじかい文のなかに、あなたという方がくっきりと浮いて見えたのをおぼえております。見つけだしましたから書いて見ましょう。

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十一月廿四日、夕方平塚さんが見える。今日は黒い眼鏡がないので顔の上から受ける感じが明るい。話をしている間に深味のある張《はり》をもった眼が幾度も涙でいっぱいになる。この人を見ると、身体じゅうが熱に燃えている、手をふれたら焦げただらされそうな感じがするでしょう、とある人のいった事を思いだす。厚い口尻に深い窪《くぼ》みを刻みつけて、真っ白な象牙《ぞうげ》のような腕を袖口から出しながら、手を顎《あご》のあたりまで持っていって笑うとき、ちょっと引き入れられる。私はこの人の声も好きだ。
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 わたくしはあなたのお顔を、天平《てんぴょう》時代の豊頬《ほうきょう》な、輪廓のただしい美に、近代的知識と、情熱に輝き燃《もえ》る瞳《ひとみ》を入れたようだとつねにもうしておりました。
 らいてうさま、
 あなたが濡《ぬ》れそぼちて、音楽会の切符を持ち廻られたり、劇場と特約した切符を売った
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