、あなたは単に美人伝ばかりの人ではありませんから、わたくしは、あっさりと、あなたのお名を加えて自分の満足だけに致すのです。貴女の伝記は、思想家として――近代女性の母としてあるべきです。
あなたというお方は、気持の優しい方だと思います。知らない方は、あなたをまるで違ったふうに思っているでしょうと思います。女丈夫だから、若く、ねんごろにつかえる夫を持ったなどと推測にすぎることを言って平気なものもありますが、それは大変あやまった事で、あなたほどの方が夫から敬されたのはあたり前です。それ以上の親しみと愛が、そんな事を包んでしまうのを知らないのです。妻というものは台所の俎板《まないた》と同様、または雑巾《ぞうきん》ぐらいに見てよいものだといって憚《はばか》らないものがあることゆえ、妻の偉さを知っているものを白眼で見て、羨《うらや》ましさから起る嫉妬《しっと》にしか過ぎません。なんであなたほどのかたが、妻におもねり、機嫌ばかり取っているような、そんな男を男と見ましょうか、伴侶《はんりょ》として選みましょうか。見せかけだけでしか標準をさだめ得ない、世の中の軽薄さを思わせられます。
田村俊子さんが
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