る、おのれ思ふにはかなき戯作《げさく》のよしなしごとなるものから、我が筆とるはまことなり、衣食のためになすといへども、雨露しのぐための業《わざ》といへど、拙なるものは誰が目にも拙とみゆらん、我れ筆とるといふ名ある上は、いかで大方のよの人のごと一たび読みされば屑籠《くずかご》に投げらるゝものは得《え》かくまじ、人情浮薄にて、今日喜ばるゝもの明日は捨てらるゝのよといへども、真情に訴へ、真情をうつさば、一葉の戯著といふともなどかは価のあらざるべき、我れは錦衣《きんい》を望むものならず、高殿《たかどの》を願ふならず、千載《せんざい》にのこさん名一時のためにえやは汚がす、一片の短文三度稿をかへて而《しか》して世の評を仰がんとするも、空《むな》しく紙筆のつひへに終らば、猶《なお》天命と観ぜんのみ。(一葉随筆、「森のした草」の中より)
おろかやわれをすね物といふ、明治の清少《せいしょう》といひ、女|西鶴《さいかく》といひ、祇園《ぎおん》の百合《ゆり》がおもかげをしたふとさけび小万茶屋がむかしをうたふもあめり、何事ぞや身は小官吏の乙娘《おとむすめ》に生まれて手芸つたはらず文学に縁とほく、わづかに萩《は
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