ぎ》の舎《や》が流れの末をくめりとも日々夜々の引まどの烟《けむり》こゝろにかかりていかで古今の清くたかく新古今のあやにめづらしき姿かたちをおもひうかべえられん、ましてやにほの海に底ふかき式部が学芸おもひやらるるままにさかひはるか也、ただいささか六つななつのおさなだちより誰つたゆるとも覚えず心にうつりたるもの折々にかたちをあらはしてかくはかなき文字|沙《ざ》たにはなりつ、人見なばすねものなどことやうの名をや得たりけん、人はわれを恋にやぶれたる身とやおもふ、あはれやさしき心の人々に涙そそぐ我れぞかし、このかすかなる身をささげて誠をあらはさんとおもふ人もなし、さらば我一代を何がための犠牲などこと/″\敷《しく》とふ人もあらん、花は散時《ちりどき》あり月はかくる時あり、わが如きものわが如くして過ぬべき一生なるに、はかなきすねものの呼名《よびな》をかしうて、
    うつせみのよにすねものといふなるは
        つま子もたぬをいふにや有らん
をかしの人ごとよな(一葉随筆、「棹《さお》のしづく」より)
[#ここで字下げ終わり]
と、心を高く持っていたこの人のことを、私は自分の不文を恥じながら
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