思ひ、など降る雪のつもりけん
    つひにとくべき中にもあらぬを
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と嘆き四月の雨の日の記には、
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わが心より出たるかたちなればなどか忘れんとして忘るゝにかたき事やあると、ひたすら念じて忘れんとするほど、唯身にせまりくるがごとおもかげのまのあたりに見えて得《え》堪ゆべくも非《あら》ず、ふと打みじろげばかの薬の香のさとかをる心地して思ひやる心や常に行通ふとそゞろおそろしきまでおもひしみたる心なり、かの六条の御息所《みやすどころ》のあさましさを思ふにげに偽りともいはれざりける。
    おもひやる心かよはゞみてもこん
        さてもやしばしなぐさめぬべく

    恋は、
見ても聞きてもふと思ひ初《そ》むるはじめいと浅し、
いはでおもふいと浅し、
これよりもおもひかれよりも思はれぬるいと浅し、
これを大方《おおかた》のよに恋の成就《じょうじゅ》とやいふならん、逢《あい》そめてうたがふいと浅し、
わすられてうらむいと浅し、
逢んことは願はねど相思はん事を願ふいと浅し、
名取川《なとりがわ》瀬々のうもれ木あらはればと人のため我ためををしむ
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