調理ものは、いつのよいかにして賜はることを得べきなど思ひ出《いづ》るまゝに有しこと恋しく、世の人のうらめしう、今より後の身心ぼそうなど取あつめて一つ涙ひぬものから、かく成行《なりゆき》しも誰ゆゑかは、その源はかの人みづから形もなき事まざ/\言触しうしたればこそ……
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とあるが、その実は野々宮某という女友達の嫉妬《しっと》から言触らされたのを知らなかったのである。
彼女は恋人から離れたと思い信じたが、彼女の心はそうゆかなかった。或時は、
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吹風のたよりはきかじ荻《おぎ》の葉の
みだれて物を思ふころかな
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とまで思い乱れ、またある時は伯父《おじ》の病床に侍して(かゝる時の折ふしにも猶《なお》彼の人を忘れ難きはなぞや)といい、ある時は用もなきに近き路《みち》をえらんでゆき、その人の住む家の前を通りて見、その家の下女《げじょ》に行逢《ゆきあ》いて近状を聞き、(万感万嘆この夜|睡《ねむ》ることかたし)と書いたのは、彼女の青春二十一歳のことであった。次の年の一月二十九日雪の降るのを見つつ、
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わが
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