、一つとして同じ性格には書いてないが、その底の底を流れて、隠しても隠しきれない拗《す》ねた気質は、日記から読みとった作者の、どこか打解けにくいところのある、寂しい諦めと、我執《がしゅう》を見|逃《のが》されない。

 私は一葉女史の作中の人物をかりて、女史に似通っている点をあげて見たいと思った。も一つは、どの作が作者の気に入っていた作か知りたいと思った。それよりも深く知りたいのは、どの作のどの女性が、最も深く作者の同情を得、共鳴のあるものかということであった。最も高く評価されたのは「濁り江」のお力、「十三夜」のお関、「たけくらべ」のみどりであったが、すべての女主人公を一固めにして、そして太く出た線こそ、女史の持っているほんとうの魂だという事が出来るであろう。
「経づくえ」は小説としては「にごり江」や「たけくらべ」に競《くら》べようもない、その他の諸作よりも決して勝《すぐ》れてはいない。その構想も『源氏物語』の若紫を今様《いまよう》にして、あの華《はな》やぎを見せずに男を死なせ、遠く離れたのちに、男が死んだあとで、十六の娘がその人の情《なさけ》を恋うという、結末を皮肉にした短いものである
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